今回の目的地、「檸檬の樹」。十数年前、向島の大林宣彦作品ロケ地めぐりの起点、私設案内所(?)として訪れて以来のお付き合い。
銀行員を脱サラして始められた喫茶・ギャラリー。マスターの絵はプロはだし、奥様は琴と葉書絵と芸術面の理解が深くて、地元の写真愛好家、絵画グループなどの展覧会もよく行われてきた。
そして店を閉じるフィナーレは、マスターと奥様の作品展。"らしい"終わり方だと思う。
店はこの1か月"開店以来"だという混雑だそうで、遠くからもファンが別れを惜しんで駆け付けている様子。日曜画家の域を超えた尾道愛を感じる力作が並んでいる。
25年間が過ぎたとはいえ、まだまだ綺麗な店内で、閉じてしまうのが勿体ないぐらい。ということで色々な方が「今後ああすれば、こうしたら」とアドバイスを下さるという話だが、マスターは閉じると決めたからにはギャラリーなどとしてまた開くのは考えていないとのこと。コーヒーを入れて人に出すことは好きなので、別の展開は考えられるとはおっしゃっていたが、ここでの再開はないと。
小歌島という住所にあるお店。窓から小高い山が見える。この山が本来、向島から独立した島であった小歌島本体で、その周りを埋め立てて向島と一体化して今の形に。地名に「島」のなごりを残している。この山の向こう側が海、尾道水道で、中腹に灯台が建っている。
ここで最後のモーニングセットを頂いた。パンとコーヒー、ゆで卵とサラダと果物入りヨーグルト。そういえば東京を早朝に出る時から何も食べていなかったな。閉店挨拶?のお土産なども頂く。家具類などにも25年の思い出があるとおっしゃっていた。今度の土曜日が最後。台風が来ているけれどどうなるか「最後の日が台風で大荒れというのも、この店らしいかも」と笑っていたマスター。
昔集まっていた「尾道FAN」、自転車を借りて「さびしんぼう」や「ふたり」「あした」などのロケ地を訪ねていた多くの大林ファンのこと。「男たちのYAMATO」の巨大ロケセットが横にあった頃の話。亡くなった駅前マルコシ書店のご主人のこと。尾道に詰まった色々な思いが過去になっていく。
これでもう、訪ねて「どうも」「やあお久しぶり」というお店がなくなった。毎度行く店はまだあるが「お帰り」という関係ではないので。
考えてみれば、こちらが歳取ってくれば本当の故郷でさえそうなってくる。私を子供の頃から知っている親類も減ってきた。
景色は変わらないが知っている人の少なくなった"第二の故郷"尾道。今後は「懐かしむため」に来ることになるのかな。寂しいような話だが、この穏やかな風景は変わらず迎えてくれるに違いない。
さて続きは、ちょっと商店街を歩いてみた。木曜日は定休の店が多いのでシャッターの閉まっている寂しげな感じだったが、新しい店が目立って増えていたのでちょっと嬉しかった。 続く
カメラ:Sony α99 + Sony ZEISS 2.8 / 16-35mm